テレビCM崩壊

テレビCMなんてもう効かなくなってて、それを救うレシピがこんなにあり、それに挑戦しないと生き残れないよという本。オススメかと聞かれるとどうにも悩ましい部分がある。「消費者に歩み寄って、ブランドを委ねてしまうのが一番良い」という主張に関しては同感できる。が、それをどこまで許すのか?という点について、例えば「ブランドハイジャック」では、アーリー層に浸透したら、然るべき時点でマスによって、自分達の(会社の)手に戻さなければならないとしていて、そうだなあと思ったんだけど、この本にはそういう長期的な視点は無い。が、そこは会社は誰のものか?という与太話にも通ずるモノがあるような気がするので重要ではなく。

そもそも、議論の前提になっている「テレビCMが死んでいる」って点。確かに全盛期の効き具合とは比較しようもないんだけど、それでも一定の役割は担っているわけで、それはそれで全然問題が無いというか、代替が無い以上CM爆撃とかしょうがないじゃないかとは思う。消費者として嫌だというならテレビから立ち去るだけだし。

だいたい、広告主からしてみれば、テレビCMやるなんてのは殆ど言い訳の領域だと思うんですよ。この本では全然触れられてないんだけど、消費者側から見てアホみたいにテレビCM撃ってる企業が何を意図してやってるかって言うと、そのほとんどが

・流通小売向けの宣伝
・自社員/販社のモチベーションUP

なんじゃあないかと妄想するわけです。爆発的なブランド向上とか売上貢献とかいうのはクリエイティブがハマった場合のみ起きる博打なんてのは当たり前だし。

売りの現場って視点から見ると、キャンペーンが始まる前段階で、販社がセールスパンフレット持ってやってきて商談する。ここを通らなければ、そもそも商品なんて店頭に並ばないのでとても重要。で、そのパンフレットには色んなセールスポイントが列挙されている。
「○○が全社を上げて新規ブランドを大々的に立ち上げます」
「春にこんなキャスティングで大量のテレビCM撃ちます」
「販促ツールとして店頭POPもお持ちします」
「さらにプロモーションとして○○グッズプレゼントキャンペーンも行います」
「さらにさらに、今お買い上げいただくとこれもつきます!」
とかこんな調子。とにかく時間に追われている仕入れ担当者なんかは、そこまでやるって言ってんだから話題になってるだろうし、売れるんだろう。くらいの感触で買い付ける。

この時、ややこしいメディア戦略だとか、ネットでこういう仕組みでキャンペーンやります。野外でこんなイベントやります。クロスメディアです。楽しそうでしょ?売れそうでしょ?というセールストークをするのははっきり言って現実的じゃあない。*1テレビでドカンと行きますよの方が分かりやすいし、そもそもその時点でパンフレット&トークに盛り込めるキャンペーン内容なんてたかが知れてるし。

実際に、ありきたりなCM爆撃でトップシェアを奪還した「tsubaki」なんかを見てると、とても崩壊なんて言葉が当てはまる状況じゃあないなあと思う。*2ただ、それの反証になるような事例もありそうで、それは去年の「ナショナルから大切なお知らせとお願い」断行。年末商戦に向けて、松下は全く商品に関するテレビCMを撃たなかった。それがどれだけのマイナスを発生させたか*3は、恐らくきちんと検証され、その検証結果に即したキャンペーンが今後展開されていくのではないかと思う。ネットで面白がられてたし、そういう意味でも今後の松下は面白いかもしれない。

まあ、どっちにしても、視聴率なんてテレビ局と代理店以外はあんまり誰もあてにしてない*4けど、なんとなく統計的に正確っぽいし、変わるものが無いからそれで行こうという感じでしょう?多チャンネル化って言っても、そりゃ今よりは細分化するだろうけど、それでもCSの普及状況とか見てる限りだと、崩壊なんて大袈裟な話じゃあないと思うんですよねえ。説明責任と多チャンネル化の間で徐々に枠の価格が落ちていくというだけなんだろうなあという。まあ、それが業界としては一番の問題というのは分かるけど。

有名な言葉で「広告費のうち、半分はゴミ箱に捨てている。ただ、どっちの半分が無駄になっているかが分からない」ってのは、テクノロジーが進んでも、やっぱり分からないってのが今のところの回答なんだと思うんです。クッキーで消費者を追跡して云々という話はそれこそネット初期からあったし、常時接続が実現しても、その追跡技術が大きく発展しているようには全然見えないし。もっと、例えば電子通貨が発達して、皆携帯でバンバンモノ買うようになったら初めて、その猫が死んでいたのかどうかが分かるんじゃあないかなあと。なるほど、docomoDCMXにやたら気合が入っているわけだと思い至った次第であります。

扇動的なタイトルは監修者序文にあるように意図的なので、ネタにマジレスだけど、ちょっとなあと思ったので書いてみた。ただ、今の広告戦略がテレビCMの価値低減を織り込んで、新しい挑戦を行っているかというと、それははなはだ疑問であるし、そのレシピとなる第3章の「解決策になりうる10のアプローチ」だけでも読む価値があると思います。ただしそれはテレビCMの代替としてじゃあなく、戦術オプションとして。結局は解決すべき課題が何かによりますよねという当たり前の結論。

*1:ここら辺、アメリカの流通小売形態に大きな違いがあって、本に全く記述されていないのかもしれない。イメージ的にはKマートウォルマートコストコで殆ど牛耳っているように見えるんだけどどうなんだろうか?

*2:あのCMの作りとかシェアを誇るようなパブ記事を書かせる資生堂はかなりどうかなあとは思うけど。

*3:特にとばっちりを食っているはずのパナソニックブランド

*4:だって視聴率50%!って新聞に踊ってても、それが世帯なのか、個人なのかなんて誰も気にしてないでしょ?